スターへの道
第2章:東洋の夢

多くの香港の子どもたちにとって、「馬」のイメージは中国の古代史や伝説と密接に結び付いており、香港人は「龍馬精神」 という言葉を好む。中国の伝説において「馬」は「龍」との関連が深く、どちらも空を飛び、生命の守護神であり、人々を祖先の住む世界へと導いてくれる存 在 であると考えられていた。

クリストファーは、幼少期から乗馬が大好きだった
   
龍の模様が施された皇帝の衣裳


中国では昔から、馬は異民族の侵入を防ぐための重要な道具とみなされ、歴代王朝は騎兵能力の向上に心血を注いだ。古代から馬が特別な存在であったこと も、中国で「霊馬」伝説が生まれた原因であろう。1万匹に1匹もいないといわれる「霊馬」は、漢の武帝をして「その馬を得れば、その国を得る」と言わしめ るほど戦略的に重要な存在だった。中国の歴史書に記されている「汗血馬」や「千里馬」は「霊馬」の一種である。息子は幼少のころから「霊馬」伝説に興味を 示し、わたしが話し聞かせる伝説をひとつひとつ覚えていった。

2009年に英国のコーラル・エクリプスステークスで、ライバルのリップヴァンウィンクルを破って優勝したシー ザ スターズ
   
かつての中国では、馬が徽章や勇士のカードにもデザインされた
     
欧州のレースで勝つには、現地の馬をスピードで凌駕しなければならない
   
中国の皇帝は、狩猟の勝負において、千里馬の速さを発揮した


中国人が馬への愛着を再認識するのは春節(旧正月)である。春節には、家々の門に「春聯」と呼ばれる赤い紙が貼られる。赤地の上に馬が駆ける姿を金色で描 いた縁起物の紙だ。赤は中国人にとって幸運の色であり、「馬到功成」(馬来たれば、物事は成功する)ということわざはよく知られている。中国には、馬は 乗った人を極楽浄土に導いてくれるという言い伝えもある。

龍馬精神(龍と馬の強さやエネルギーを表わす中国のことわざ)
   
馬到功成(馬がやって来れば、物事は成功するという意味の中国のことわざ)


中国は地理的にも気候的にも馬の繁殖や育成に適した場所とは言えない。それゆえに、なおさら馬は貴重な存在となった。中国の歴代王朝は、モンゴル人など異 民族の侵入を防ぐため、資金を惜しむことなく近隣の国々から馬を買い求めた。また、中国人は馬をよりよく乗りこなすため、鞭(むち)や鞍(くら)、鐙(あ ぶみ)などを発明した。ちなみに中国人は、世界で初めて製紙技術と火薬を発明したことでも知られている。

古代中国の発明:紡ぎ車
   
古代中国の発明:火薬
     
     
中国の製紙工場は、早くも漢の時代には存在していた
   
古代中国の発明:印刷術


息子のクリストファーの馬に対する情熱は、彼の成長とともに強まっていった。クリストファーはまず、騎馬の名手であったモンゴル人たちの伝説にのめり込ん だ。中世にシルクロードを旅したイタリア人のマルコ・ポーロは「モンゴル人は馬で10日間も走り続ける。その間、馬の血管を切り、その血を飲むだけで生き 長らえる」と記述している。小さな少年であったクリストファーにとって、こうした伝説は衝撃的だった。わたしが息子に買い与えた最初の本は、アントワー ヌ・ド・サン=テグジュペリの『星の王子さま』である。この物語の中で、主人公の王子さまは不思議な旅を通じて、自己の存在や生命の意義などについて学 ぶ。この物語に幼いクリストファーはとても啓発されたようだ。『星の王子さま』を読んでからというもの、クリストファーは、何かに挑戦するたびに、もしも 王子さまが同じ境遇に遭ったらどうするか、自分はどうすべきかと考えるようになった。まるで、言葉の壁を越えて2人の精神がひとつになったようだった。彼 が学んだもっとも大切なことは「自分の目で見て、感じる」ことだった。彼が感じたのは、広大な宇宙と比べれば、自分は海岸の砂粒のようにちっぽけな存在 にすぎないということだ。そしてクリストファーは、世界をよりよくするためには、自分だけでなく、周りの人々すべてが幸福になれるようにしなければならな いと考えるようになった。

馬に乗るモンゴル人(過去)
   
馬に乗るモンゴル人(過去)
     
読書に集中するクリストファー
   
アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ著『星の王子さま』

 










 
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