シー ザ スターズと私
第5章: スター誕生

こうして新しい交配計画が決まったものの、それは秘密裏に進行した。なぜなら、ケープクロスはその娘であるウィジャボードと比べると、さほど評判のいい馬ではなかったからだ。母親は、交配の専門家たちが猛反対することを恐れて、計画をこっそりと進行させることにした。

 

交配計画は秘密裏に進行された
 
交配の専門家たちが知ったら驚いたことだろう

 

専 門家たちは、アーバンシーとサドラーズウェルズとの間に生まれたガリレオ、ブラックサムベラミー、オールツービューティフルがいずれも優秀な馬であること から、引き続きこのカップルによる交配を続けたいと考えていた。サドラーズウェルズが駄目なら、その子どもであるモンジューを種牡馬にするつもりだった。 仮に海外の馬と交配させるのなら、米国の種牡馬を選ぶべきだという専門家もいた。まるで「Too many cooks spoil the broth」(料理人が多すぎるとスープがだめになる)ということわざそのままに、いろいろな人が、さまざまな情報提供や提案をしたが、母はひそかに当初 の計画を進行した。そのころアーバンシーはすでに身ごもっており、次の交配が可能となるのは2005年3月以降だった。

 

Too many cooks spoil the broth(料理人が多すぎるとスープがだめになる)

 

ア イルランド国立種牡馬育成センターでアーバンシーの世話をしていたジョン・クラーク氏はつねづね「理想的な交配相手を探すのは簡単なことではない」と言っ ていた。優秀な種牡馬との交配は、つねに予約がいっぱいだからだ。母はわずかなチャンスをモノにするため、クラーク氏に電話を掛けた。「アーバンシーと ケープクロスの交配を手配してほしいの」。クラーク氏は驚いた。「何だって?電話回線の調子が悪くて聞き間違えたのかな?スペルを言ってくれ。C、A、 P、E、C、R、O、S、S……ケープクロスだって?」

 

クラーク氏は聞き書きしたスペルを読んで驚いた

 

母は、「もう1頭のウィジャボードを手に入れるために、ケープクロスと交配させたい」という希望をクラーク氏に伝えた。我に返ったクラーク氏は、「たとえ交配させたとしても、牡馬が生まれるのか、牝馬が生まれるのか、確率は50対50だぞ」と母に言った。

 

一度の交配で牝馬が生まれる確率は50%だ

 

ク ラーク氏はさらに「ケープクロスは短距離に強い馬だ。長距離レースに耐えるスタミナを持った仔馬が生まれてくるとは限らない」とも言った。しかし母は 「アーバンシーの血を受け継げば、スタミナには問題ないはずだ」と譲らなかった。レスボード氏はかつて、アーバンシーをメルボルンカップに出場させようと したことがある。あいにく脚を負傷したせいで実現しなかったが、メルボルンカップは2マイルの長距離レースだ。アーバンシーにメルボルンカップへの参加資 格があるなら、スタミナは申し分ないはずだったし、それに短距離馬であるケープクロスの速さが加われば鬼に金棒だ、と母は思った。

 

メルボルンカップは、世界でもっとも有名な2マイルレースだ
メルボルンカップに出場する馬にはスタミナが要求される

 

アーバンシーは、砂漠を歩くラクダに負けず劣らずのスタミナと耐久力を兼ね備えていた(写真は「シルクロード」* を行くラクダ)
ケープクロスは、まるでフェラーリのような速さが持ち味だった

 

*「シルクロード」は、中国の絹(シルク)を西洋に運んだ東西交易路だ。多くの国々の隊商によって、シルクのほか、さまざまな品物が運ばれた。

 

オーナーの命令は絶対だ。クラーク氏は母親の希望を受け入れて、ケープクロスとの交配を手配した。

 

オーナーの命令は絶対だ

 

クラーク氏の言うとおり、牡馬と牝馬の生まれる可能性は50対50だった。確実に牝馬が生まれるという保証はない。結果的に誕生したのは牡馬だったが、それは非常に優れた馬だった。

 

美しい小さな牡馬
 
わたしたちは、この小さな牡馬をシー ザ スターズと名付けた。

 

わ たしたちは、この小さな牡馬をシー ザ スターズと名付けた。「シー」(Sea、海)は、言うまでもなく母親の「アーバンシー」(Urban Sea、都会の海)の血統を表わすものだ。わたしが「シー」という言葉を頭に浮かべたとき、次に続く言葉としてひらめいたのは「スターズ」(Stars、 星たち)であった。なぜなら、この仔馬は広い宇宙を象徴する存在であるかのように思えたからだ。わたしが小さいころ、母親と一緒にバルコニーから夜空を見 上げたときのことを思い出す。そのとき母親は言った。「坊や、星たちを見てごらん(See the stars)」。

 

わたしの仔馬は、広い宇宙を象徴する存在であるかのように思えた
 
星たちを見上げ、流れ星を見つける

 

「星 たちを見てごらん(See the stars)」という母親の言葉を思い出して、わたしは「これだ!」とひらめいた。「See The Stars」(星たちを見る)と「Sea The Stars」は発音が同じだった。これならアーバンシーの血統を示す「Sea」(シー)と、宇宙を表わす「Stars」(スターズ)を合わせて、ひとつ の名前にできる。さっそく翌日、ウェザビーズにある英国馬名登録所で「シー ザ スターズ」(Sea The Stars)という馬名を登録した。

 

「これだ!」
 
言葉遊び

 

「See The Stars」と「Sea The Stars」は同じ発音だ

 




 
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